子供の暑さ対策②
暑さ対策の側面からみる個別性の原則
前回は、大人と子供の体温調節機能の違いや暑さ対策に関連する特徴について紹介しました。
今回はトレーニングの原則、特に個別性の原則の視点から子供の体温調節を考えてみたいと思います。
- トレーニングの原則には、過負荷の原則、個別性の原則、特異性の原則などがある
- 個別性の原則とは、それぞれの個人にあったトレーニング負荷を決定することである
- 絶対的な強度での運動は体温があまり変化しない子どもと過度に上昇する子どもの双方が混在する可能性がある
【はじめに】
スポーツや運動を行う場合、レクリエーションであっても競技力向上であっても、少なからずトレーニング効果を得ることを目的として行っていると思います。
トレーニング効果を得るためのトレーニングの原則には、過負荷の原則や個別性の原則、特異性の原則などが挙げられます。これらの原則に従ってトレーニングを行い、その後の疲労と休養のバランスがうまく取れることによって、体力、引いては競技力が向上します。
しかし実際には、これらの要素を漏れなく網羅してトレーニングを行うことは難しく、特に学校の部活動などでは対象となる選手数も多くなることから、苦労されている指導者の方も多いのではないでしょうか。
【暑さ対策の側面からみる個別性の原則の重要性】
トレーニングの原則の中でも、過負荷の原則、特異性の原則、反復性の原則などをトレーニング内容に反映することは比較的簡単ではないでしょうか。少しトレーニング強度を高める練習をしたり、種目に特化したトレーニングを行ったり、トレーニングを継続することは常に考慮されているように思えます。
その一方で、選手の身体特性に応じてトレーニング強度を個別に決定することは難しいかもしれません。しかし、体温調節が未発達な成長段階の子ども達には、個別性の原則を考慮せずにトレーニングを行なうと、熱中症の発症とも関連する高体温のリスクが大きく高まる可能性があります。
個別性の原則とは、それぞれの個人にあったトレーニング強度を決定することですが、スポーツの現場では、個人の最大値の測定をせずに絶対的なトレーニング強度、例えば1kmを4分で走るといった絶対的な強度設定でトレーニングを行うこともあると思います。
この場合、個々の体力レベルは考慮されていないので、一人一人に掛かる身体的な負担が異なります。研究では、絶対的な強度を用いて運動を行った場合に体温の上昇度合(傾き具合)が個人によって大きく異なることが示されています。
つまり、暑い環境の中で体力レベルや成長度合いが異なる子どもに対して、絶対的な強度を指標として運動を行うと、体温があまり変化しない子どもと体温が大きく上昇してしまう子どもの双方が混在する可能性があることになります。
前回紹介したように、成長過程にある小学校高学年から中学生、高校生至るまで、体温調節機能の発達は個々で大きく異なります。体温は発汗などの体温調節機能だけでなく、体力レベル、年齢、脂肪量の大小など多くの要素によって影響を受けます。
これらの1つ1つについて個別に対応することは実際のスポーツ活動現場では難しいというのも事実ですが、このような情報を理解しておくだけでも、子どもたちの、熱中症の発症のリスクや高体温によるパフォーマンス発揮の低下のリスクを軽減することに役立ちます。
参考文献
Saltin et al.
Esophageal, rectal, and muscle temperature during exercise.
J Appl Physiol. 21(6), 1757-1762, 1966.
【イメージ写真】
こちらからお借りしました
https://www.photo-ac.com/main/detail/2523671