アイススラリー
- アイススラリー摂取は、深部温の低下、皮膚温の低下、冷感の獲得のいずれを目的にするかで、目安となる摂取量が変わる
- 深部温の低下を目的とするのであれば、体重1kg当たり7.5 gの摂取が必要
- 摂取後、深部温が低下するには少なくとも15分以上の安静時間の確保が必要
- 運動を行いながら(例えば走りながら)のアイススラリー摂取は、摂取そのものが難しく、深部温の低下もあまり期待できない
- 休憩中に少量のアイススラリーを継続的に摂取することができれば、その後の深部温の上昇を緩和できる可能性がある
- 15分前後の休憩が取れる場合には、少量の摂取でも外部冷却と組み合わせることによって、深部温の低下が期待できる
【はじめに】
アイススラリーはトップアスリートを始めとした競技現場で利用されていますが、最近ではコンビニエンスストアなどでも手軽に購入可能となっています。
ここでは、深部温や皮膚温などの体温への影響や、利用の際に考慮すべき点などを紹介し、最後に運動時における利用方法をタイミング別に考えてみたいと思います。
【アイススラリー摂取と深部温および皮膚温】
以前にも紹介しましたが、アイススラリーは非常に細かい氷の粒子と液体が混ざった状態の飲料です。氷の粒子を摂取することによって、その氷が体内で融ける際に発生する融解熱の効果で、通常の飲料と比較して体温の低下効果が高くなると考えられています。
研究では、運動前に体重1kg当たり7.5gのアイススラリーを摂取することで深部温がおおよそ摂取後30分で0.5 ℃〜0.7 ℃程度低下し、4℃の水を飲んだ場合と比較して、暑い環境下での運動継続時間が10分ほど延長したことが報告されています。
またアイススラリー摂取によって、深部温のみならず主観的な温熱感覚、さらには脳内(前頭葉付近)の温度も低下することもわかっています。
運動中の摂取に関する報告では、テニスをシミュレートした運動中の休憩のタイミングで定期的に体重1 kgあたり1.25 gのアイススラリー摂取をすると、深部温の上昇度合いが、4℃の水を摂取した場合と比較して緩和されたことが報告されています。
しかし、運動中(例えば走りながら)における深部温上昇の抑制効果を期待して、アイススラリーを摂取行うのことはその摂取量や水分と比べて飲みづらいことを考えると、難しいかもしれません。
一方、アイススラリー摂取による皮膚温低下に対する効果は、冷水浴など身体の外部から直接冷却する方法と比べるとその効果はあまり高くないようです。
【実際のスポーツ活動時におけるアイススラリー摂取の留意点】
暑熱環境下での運動時に、深部温を低下させるまたは低下させておくことは、熱中症予防の観点からも高体温によるパフォーマンス発揮への影響の観点からも有効です。
しかしアイススラリー摂取による深部温の低下効果は、体重1kg当たり7.5 gの量を摂取すること、そしてその後数十分の安静を保つことが必要になります。
さらに、実際のスポーツ活動時に上記の効果を期待してアイススラリー摂取を行うことは、作成や持ち運びの問題、衛生管理、そして運動の制限など、いくつか克服するべき課題が存在します。これらの点を考えると、スポーツの現場においてアイススラリーを深部温の低下目的で利用するには考えなければいけない点がいくつかあります。
【実際のスポーツ活動時におけるアイススラリーの利用】
これらの背景や最新の研究データから、アイススラリーを実際のスポーツ活動時にどのように利用するのが良いか考えてみたいと思います。
アイススラリー摂取によって冷感が得られることは間違いないので、主観的な温熱感覚の軽減にはその摂取効果が期待できます。深部温の低下に関しては、先ほども紹介したとおり、かなりの量を摂取する必要や摂取後に安静時間を確保しなければならない点など、解決すべき点がいくつかあります。
その一方で、少量の摂取でも、前腕冷却(身体冷却③・アドバンス参照)などの外部冷却と組み合わせることによって、深部温の低下効果が促進される可能性を示す研究成果が出始めています。
また、運動後の摂取においても深部温の低下に対して効率的であることがわかってきており、冷却の目的によっては、必ずしも体重1 kg当たり7.5gの摂取は必要ないと言えそうです。
参考文献
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Onitsuka S, Nakamura D, et al. Ice slurry ingestion reduces human brain temperature
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Siegel R, Mate J, Brearley MB, Watson G, Nosaka K, and Laursen PB. Ice slurry ingestion increases core temperature capacity and running time in the heat. Med Sci Sports Exerc. 42(4): 717-725, 2010.