アドバンス 熱中症関連

受動的な暑熱順化

ポイント

  • 暑熱順化の獲得は受動温熱負荷のみでもできる
  • 受動温熱負荷を用いた順化方法は、長時間の温熱負荷に暴露される必要がある
  • 日本の冬に温かい地域で試合が行われる場合など、通常の練習後に受動温熱負荷を組み合わせることで順化の効果を得ることができる

【始めに】

前回は暑熱順化とその獲得および消失について紹介しました。しかし実際にはアスリートの皆さんが競技現場において、順化のためだけにトレーニングを行うことはなかなか難しい側面があるのではないでしょうか。
そこで今回は、受動的な温熱負荷が暑熱順化に与える影響を紹介し、競技現場のアスリートへの応用について考えてみたいと思います。

【受動温熱負荷による暑熱順化の獲得】

前回紹介した気温の高い環境と運動を組み合わせて暑熱順化の効果を獲得する方法とは別に、運動を行わず受動的な温熱負荷だけでその獲得を行う方法があります。以前に紹介した、季節変化の影響(夏場の温度上昇)で獲得できる順化も受動的な温熱負荷による効果の獲得です。
このような温熱負荷には、気候による温度の上昇だけでなく、温浴、サウナの利用、暑い部屋での滞在も含まれます。つまり、体温を上昇させる運動以外の方法でも暑熱順化の効果を獲得することができるということです。

例えば、44 ℃の温水に腰までつかる温熱負荷を1日おきに1回45分、2週間継続することで安静時の深部体温の低下や発汗能の増加などの順化効果が認められたことが報告されています。また運動とサウナを組み合わせて順化を行う場合には、通常環境下で練習をした後に、80 ℃程度のサウナに30分から60分入るといった方法が用いられています。
これらのことから、受動的な方法で暑熱順化の獲得を目指すためには、身体的に負担の大きい環境に長い時間にわたり身体を晒すことが必要となります。

【受動温熱負荷をもちいたアスリートの暑熱順化】

受動的な方法では時間も身体的負担も必要とされますが、競技現場などでなるべく早く順化効果を獲得したい場合や、日本の冬に海外の気温の高い地域で試合をする場合などにこの方法を利用できる可能性があります。具体的には、通常のトレーニングと組み合わせて順化の獲得を目指します。
順化の効果を得るためには、深部体温が上昇することや発汗がおこることが大事ですが、温浴やサウナを利用する意味は身体への温熱負荷を継続することです。ですから通常の練習後の深部体温が低下する前に、なるべく時間を空けないで温浴やサウナに入ることが大切です。

これまでの研究ではこのような方法を用いて順化の効果を得ることが報告されていますが、パフォーマンス発揮への影響に関してはまだ一致した見解が得られていないようです。また、このような組み合わせによる効果の獲得は、トレーニング後の温熱負荷の継続をおおよそ1週間から10日程度継続した場合に認められるようです。

日本の冬でもトレーニングを工夫することによって暑熱順化が獲得できるとはいえ、得られた順化の効果が失われてしまわないように、温かい場所に移動する直前までこのような方法を継続する必要があることも事実です。いつも以上に試合から逆算した綿密なトレーニング計画が求められるということになるでしょう。

参考文献
Stanley J, et al. Effect of sauna-based heat acclimation on plasma volume and heart rate variability. Eur J Appl Physiol. 115(4):785-794, 2015.

Brazaitis M, et al.
Heat acclimation does not reduce the impact of hyperthermia on central fatigue.
Eur J Appl Physiol. 109(4):771-778, 2010.

Heathcote SL, et al.
Passive Heating: Reviewing Practical Heat Acclimation Strategies for Endurance Athletes. Front Physiol. 20;9:1851, 2018.

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