熱中症関連

なぜ暑さ対策が必要か?

〜暑さ対策の必要性を体温から考える〜

  • 運動時における体温上昇には上限がある(個人差が当然あるが40℃前後)
  • 安全にスポーツをするためにはこの上限に近づかないようにすることが大切
  • 熱放散反応には個人差(年齢・運動習慣など)が関係する

前回はヒトの体温調節について説明しました。体温調節が妨げられる状況(つまり熱放散が妨げられる状況)は気温や湿度が高くなる“夏“に多くなりそうですが、そのような状況でも”“暑さ対策”を行うことによって、熱中症の発生リスクは軽減することができそうです。

それではそもそも、なぜ“暑さ対策”を行う必要があるのでしょうか?

前回もお話しましたが、ヒトの体温は一定に保たれています。逆に言うと、体温が著しく低下したり、著しく上昇したりする場合には、生命の危機に陥る可能性が高くなるということです。
冬山で遭難し、低体温となって命を落とされる方がいらっしゃるように、暑さによる高体温の影響で亡くなる方がいらっしゃることもまた事実です。

ヒトが正常な状態で過ごすことのできる体温の上限は42℃であると言われています。
この42℃が身体を構成するタンパク質の不可逆的変化点であるためと考えられていますが、インフルエンザなどの発熱の場合でも通常は42℃を超えることはありません。

話をスポーツ活動に戻しましょう。運動と体温を考える上で、大変興味深い実験結果が1999年に発表されました。
この実験は暑い環境(気温40度、相対湿度17%)において、運動前に体温を1℃上昇(約38℃)させた条件と逆に体温を1℃低下させた条件(約36℃)、そして何もしない(約37℃)3つの条件下で自転車ペダリング運動を疲労困憊まで行いました。
その結果、ペダリング運動の継続時間が一番長かったのは、温度を1℃低下させた条件、次に体温変化をしなかった条件、そして一番短かったのは体温を1℃上昇させた条件でした。

しかしその一方で、運動終了時の深部体温はどの条件下においても約40℃でした。もちろん、深部体温だけが運動の継続に与える影響ではないと思いますが、この実験によって運動開始前の体温の低い方が運動の継続には有利であること、そして運動時における体温上昇には上限がある可能性が示されたのです。

当然のことですが、体温の上限には個人差があります。しかし、細胞レベルでの不可逆的な変化点である42℃より低い温度で運動の継続ができなくなるというデータは、大変興味深い結果です。
またこの実験結果から、安全にスポーツ活動を行うためには、できるだけこの深部温の上限(40℃)に近づかないように対策を行うことが大きなポイントとなりそうであることがわかります。(ウォーミングアップとの関連はまた、別の機会で紹介します)

(深部)体温の上限に個人差があるように、様々な身体症状(熱疲労や熱けいれんなど)が発生する体温にも個人差があります。
年齢や体組成(体脂肪量など)も体温調節に影響を与えますので、一概に体温が何℃になったら危険と判断することは不可能ですが、少なくともこれらのことから体温を過度に上昇させないための“暑さ対策”を行うことが不可欠であることをご理解いただけるのではないでしょうか。

現在、“運動中”の“暑さ対策”(例えば、水分補給や氷や水などで身体を冷やすことなど)は、多くの競技現場やスポーツ活動の場で行われています。
しかし、先ほどの実験でもあったように、“運動前に体温を低下させておく”ことが、暑さの中での運動を行う際には有利です。
これは体温を低下させることによって、身体に蓄えることのできる熱量(熱貯蔵量)を増加させることと関係があります。
運動をしている最中に、運動による熱産生を上回って体温を低下させることはとても難しいと考えられます。従って、“暑さ対策”は“運動前から行う”ことが重要です。
体温を下げておくことは発汗量を抑えることにつながりますし、汗による脱水が減れば脱水している状態と比べて、身体は温まりにくい状態を維持することができます。

暑さ対策は、“運動中ではなくて事前から!”

是非、実践してみてください。

González-Alonso J, et al.
Influence of body temperature on the development of fatigue during prolonged exercise in the heat. J Appl Physiol (1985), 86(3):1032-9, 1999.

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