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脱水によるパフォーマンス発揮への影響④

スプリント・ジャンプ力に対する脱水の影響

 体重の3%の脱水によって、自転車での全力ペダリングや5m、10mのスプリントパフォーマンスが影響を受けるという報告がある一方で、2%の脱水であれば、垂直跳びや50m、200m、400mのスプリントパフォーマンスは影響を受けないという報告があります。また、スプリントパフォーマンスにおける脱水の影響に関する研究では、運動や利尿剤、温熱負荷を利用して脱水させるのですが、脱水の方法によるパフォーマンス発揮への影響も指摘されています。
 一方、同じ短時間でのパフォーマンス発揮であっても、ジャンプパフォーマンスについては、3%までの脱水であればそのパフォーマンス発揮が向上する可能性があることが示されています。これは、脱水によって体重が減少することが、身体を持ち上げる動作に対して有利に働くと考えられているからです。

 前回の筋力発揮同様、実際の試合中ではスプリントやジャンプを繰り返して行なうことが求められます。暑熱環境下におけるサッカーの試合前後において、スプリントパフォーマンスとジャンプパフォーマンスのそれぞれの変化を検討した研究では、30mのスプリントパフォーマンスとジャンプパフォーマンスの双方が試合前と比較して、試合後に有意に低下したことが報告されています。
 この研究では試合後に2%程度の脱水が確認されていることから、脱水によるパフォーマンス発揮への影響が考えられますが、女性のサッカー選手を対象とした他の研究では、試合後に2%以上の脱水が認められたにも関わらず、スプリントパフォーマンスは低下しなかったことが報告されています。
 これらのことは、試合後におけるスプリントパフォーマンスやジャンプパフォーマンスの発揮の低下が、脱水だけでなく精神的な疲労や試合による身体的な疲労の蓄積など、他の要因による影響を受けていることを示しています。

 脱水がスプリントパフォーマンスやジャンプパフォーマンスに与える影響については一致した見解が得られていないのが現状ですが、脱水がパフォーマンス発揮へ影響を与える可能性があると考えられる以上、スポーツ活動中の過度の脱水はやはり避けるべきでしょう。

参考文献
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