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熱中症関連

子供の暑さ対策③

練習時間とウォーミングアップ

 これまでの2回のコラムを踏まえ、具体的に暑い環境の中でどのように練習を計画したらよいかという点について、医科学的な視点から考えたいと思います。
 ここでは、練習時間およびウォーミングアップに着目し、子どもを対象とした際に予想される懸念事項や、熱中症の発症リスクを軽減できる暑熱順化などの観点も合わせて紹介しますので、参考にしてみてください。

【夏季における練習時のポイント】

  • 夕方の練習を優先する
  • WBGTの基準を下げて運動の可否(内容)を考える
  • 順化ができていない期間の練習は1時間程度に留める

【夏季のウォーミングアップのポイント】

  • 筋温はすぐに上昇する
  • 鬼ごっこやストレッチ、技術練習などを含めて10分程度
  • ウォーミングアップが長いとエネルギー余分に使用したり体温上昇が大きくなる

【練習時間】

 朝、昼、夕でそれぞれ気象条件は異なります。日本ではWBGTが31℃以上となると運動の原則中止ですが、アメリカでは子どもの場合、WBGT 29 ℃以上で全ての運動を行うことを見合わせることが提唱されています。
 この基準を採用するのも熱中症の発症リスクを軽減するためには効果的かもしれません。
いずれの基準を選択しても日射が強く、気温の上昇も大きい日中に運動を行うことには注意が必要です。また、午前中の練習は朝食を食べていなかったり、脱水状態で練習に来たりすることも十分に考えられますので、体調の確認が必須となります。

 時間や場所の都合がつくのであれば、夕方の練習をお勧めします。日中とは異なり日射しが少なく身体への負担が軽減することによって練習そのものの質が向上すると考えられるからです。
 また、”暑熱順化”の観点から考えてみても、順化していない期間の練習時間は1時間程度を目安とするなどの配慮は変わらず必要ですが、夕方であっても気温は大きく下がることはなく、運動を行えば深部体温は上昇するので、順化の効果を得るための刺激としては十分だと思います。湿度も高くなるので汗も十分にかくことができます。

 暑さに対する自覚的な感覚だけは、実際に日射しに当たることで効果が得られる部分もあると思いますが、それは身体が慣れてからでも良いと思います。
 また、身体が順化のためだけにエネルギーを使える日、つまり休日をしっかりと設定しましょう。暑さの中での運動は、大人が思っている以上に体温調節が未熟な子供に負担となると考えておいた方がよいと思います。

【ウォーミングアップ】

 ウォーミングアップは、ボーア効果*の獲得や筋力発揮の効率化など、その後の試合や練習において運動の効率を高めるために行われます。これらの効果を得るためには、筋温や体温の上昇が必要となりますが、大人を対象とした研究では筋温は数分で上昇します。つまり、筋温の上昇を目的とする場合には数分の運動で十分ということになります。
 特に夏は、気温の影響で他の時期と比較して筋温が上昇しやすい環境ですので、冬場に行う、いわゆる身体を温める意味でのシンプルなランニングはあまり必要ないと思います。また、大人と比較して子供におけるランニング時の熱産生が大きいこと、発汗機能が未熟であることから、本運動の前に体温が必要以上に上昇してしまう可能性があります。
 夏場のウォーミングアップには鬼ごっこで筋温を増加させ、その後ストレッチを行ない、技術練習に入る流れが良いでしょう。

 ウォーミングアップはRAMP;Raise(温度の上昇)、Active and Mobilize(活動と運動)、そしてPotentiate(増強)の3つのステージに分けて考えられています。
 例えばサッカーやラグビー、バスケットボールなどチームスポーツでの練習の際は、ウォーミングアップに掛ける時間は体温の上昇による生理学的な効果を得ることやストレッチを含めて10分程度で十分ではないでしょうか。

 ウォーミングアップが長くなると、エネルギーをその分使用してしまい体温の上昇が大きくなります。このことから、夏場の体温上昇は、疲労感の出現を早めることにもつながる可能性があります。
 しかし、夏場の体温が上がりやすい気象条件はウォーミングアップに割く時間が短縮されることや、パフォーマンス発揮の側面から考えると必ずしも悪いことばかりではありません。気象を考慮した練習計画と、実際の気象条件に応じた柔軟な練習の遂行によって、夏場の練習であっても、熱中症の発症リスクを軽減しながら高いトレーニング効果を得ることが十分に可能です。

*ヘモグロビンが酸素を離しやすくなり、組織への酸素供給がスムーズになること。

参考文献
AMERICAN ACADEMY OF PEDIATRICS, Committee on Sports Medicine and Fitness
Climatic Heat Stress and the Exercising Child and Adolescent. Pediatrics;106;158, 2000.

Arnaoutis G et al. Ad libitum fluid intake does not prevent dehydration in sub optimally hydrated young soccer players during a training session of a summer camp.
Int J Sport Nutr Exerc Metab. 23(3):245-251, 2013.

Bar-Or O et al. Voluntary hypohydration in 10- to 12-year-old boys. J Appl Physiol Respir Environ Exerc Physiol. Jan;48(1):104-108, 1980.

Grundstein AJ et al. Fatal Exertional Heat Stroke and American Football Players: The Need for Regional Heat-Safety Guidelines. J Athl Train. 53(1):43-50, 2018.

井上芳光. 体温調節システムと適応的変化. 体温Ⅱ. ナップ, pp220-237, 2011.

McGowan CJ et al. Warm-Up Strategies for Sport and Exercise: Mechanisms and Applications.
Sports Med. 45(11):1523-1546, 2015.

日本スポーツ協会, スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック. 2019.

Racinais S et al. Sports and environmental temperature: From warming-up to heating-up.
Temperature (Austin). 4;4(3):227-257, 2017.

【イメージ写真】
こちらからお借りしました
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