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脱水によるパフォーマンス発揮への影響③

筋力への影響

 前回は脱水が持久力に与える影響について書きましたが、では筋力発揮への影響はどうでしょうか?脱水による筋力発揮に関する報告では、脱水の影響を受けて筋力発揮が低下するという報告と影響を受けないとする報告があります。

 脱水によって筋力発揮が影響を受ける生理学的な要因はいくつか挙げられていますが、結論からすると単回の筋力発揮では、持久的な運動の際に問題となった循環系による影響はあまりないと言えそうです。
 その理由は、単回の筋の出力発揮の際には、細胞内に蓄えられているエネルギー源でその活動のエネルギーを賄うことができるからです。ですから、このため、絶えずエネルギーが必要となる持久的な運動とは異なり、筋力発揮に関しては脱水による影響は受けづらいと考えられています。
 一方、脱水によって筋力発揮が低下する要因として挙げられているのは、筋細胞内の水分量が減少することによる筋細胞内代謝の変化です。しかし、脱水が筋力発揮を低下させる根拠となる医科学的な根拠が不足しているのが現状です。

 実際のスポーツ活動では、一回の筋力発揮ではなく繰り返して筋力発揮を行うことが求められます。筋力発揮の繰り返しに関する研究では、3〜4%の脱水で、そのパフォーマンス発揮が10%程度低下する可能性が指摘されています。これは単回の筋力発揮とは異なり、筋力発揮の繰り返しには活動筋へのエネルギー源の供給を行う循環系が関係することや、エネルギー源の回復度合いも関係すると考えられているからです。
 筋力発揮の繰り返しに関しては興味深い研究が行われていて、最大筋力の50%で筋力発揮の継続回数を正常体水分状態と脱水状態(-3%)で比較したところ、一般人と無酸素系のアスリートが脱水状態によって継続回数が有意に低下したのに対し、持久系のアスリートでは低下が認められなかったことが報告されています。
 このことは、実際のスポーツ活動中に求められる筋力発揮は、単回の筋力発揮とは異なり持久的な要因も影響することを示しています。また、繰り返しの筋力発揮に対する脱水への影響は、循環系への影響のみならずその他の要因も指摘されています。これらの点に関しては次回また、詳しくお話したいと思います。

参考文献
Caterisano A., et al.. The effect of differential training on isokinetic muscular endurance during acute thermally induced hypohydration. Am J Sports Med, 16(3): 269-273, 1988.

Judelson DA. Hydration and muscular performance: Does fluid balance affect strength, power and high-intensity endurance? Sports Medicine 2007, 2007.

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